極座標や円筒座標のラプラシアン,覚えらんないし,
単位ベクトルの微分と直交性を使ったあの脳筋導出なんてもの,二度としたくない.
オイラー・ラグランジュ方程式を用いた,ちょっとだけマシなラプラシアンの導出方法を紹介する.
まとめ
任意の座標系{qi}について,ナブラの表式(とヤコビアンJ)を知っていれば,
「ラグランジアンをL=21{∇f({qi})⋅∇f({qi})}∣J∣とおいたオイラー・ラグランジュ方程式が,−∣J∣Δf=0と等価である」
ことを用いてラプラシアンの表式を得ることができる.
「・・・等価である」はいったん認めて具体的な方法を見ていこう.証明は最後に書いておく.
直感的な理論的背景は,例えば電磁気学を思い出して,座標の関数として我々の世界で実現する電磁ポテンシャルf(発散が0)は,その勾配である電場E=−∇fによるエネルギー密度21E2が最小値をとるようなものであるといった感じだ.
方法
極座標や円筒座標を含め,一般の座標系のラプラシアンは,次のように求めることができる.
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求めたい座標系の座標{qi}(i個の座標)の関数f({qi})を考え,ラグランジアンを次のように定義する.Jはヤコビアンである.
L(f,{∂qi∂f})=∇f({qi})⋅∇f({qi})∣J∣
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L(f,∂r∂f,∂θ∂f,∂ϕ∂f)についてオイラー・ラグランジュ方程式を書き下す.
∂f∂L−i∑∂qi∂∂(∂qi∂f)∂L=0
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両辺を−∣J∣で割って整理すると,[(長さ)−2の次元]×f=0の形となるので,Δf=0と比較すると,ラプラシアンが求まる.
具体例
直交座標
まずは,よく知っている直交座標系でのラプラシアンを求めてみよう.
q1=x,q2=y,q3=zである.
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f(x,y,z)を用いて,ラグランジアンを次のように定義する.
ヤコビアンは,
J=∂x∂x∂x∂y∂x∂z∂y∂x∂y∂y∂y∂z∂z∂x∂z∂y∂z∂z=100010001=1
であるから,
L(f,∂x∂f,∂y∂f,∂z∂f)=def==21{∇f(x,y,z)⋅∇f(x,y,z)}⋅121(∂x∂f,∂y∂f,∂z∂f)⋅(∂x∂f,∂y∂f,∂z∂f)21(∂x∂f)2+21(∂y∂f)2+21(∂z∂f)2
となる.
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オイラー・ラグランジュ方程式を書き下す.
∂f∂L−∂x∂∂(∂x∂f)∂L+∂y∂∂(∂y∂f)∂L+∂z∂∂(∂z∂f)∂L0−(∂x2∂2f+∂y2∂2f+∂z2∂2f) −(∂x2∂2f+∂y2∂2f+∂z2∂2f)=0=0=0
-
両辺を−∣J∣で割って整理すると,[(長さ)−2の次元]×f=0の形となるので,Δf=0と比較すると,ラプラシアンが求まる.
両辺を−∣J∣=−1で割って整理すると,
[∂x2∂2+∂y2∂2+∂z2∂2]f=0
となるので,ラプラシアンは,
Δ=∂x2∂2+∂y2∂2+∂z2∂2
を得る.
極座標(2次元)
2次元極座標(x,y)=(rcosθ,rsinθ)のラプラシアンを求める.
q1=r,q2=θである.
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f(r,θ)を用いて,ラグランジアンを次のように定義する.
ヤコビアンは,
J=∂r∂x∂r∂y∂θ∂x∂θ∂y=cosθsinθ−rsinθrcosθ=rcos2θ+rsin2θ=r
であるから,
L(f,∂r∂f,∂θ∂f)=def==21{∇f(r,θ)⋅∇f(r,θ)}⋅r2r(∂r∂f,r1∂θ∂f)⋅(∂r∂f,r1∂θ∂f)2r(∂r∂f)2+2r1(∂θ∂f)2
となる.
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オイラー・ラグランジュ方程式を書き下す.
∂f∂L−∂r∂∂(∂r∂f)∂L+∂θ∂∂(∂θ∂f)∂L0−[∂r∂(r∂r∂f)+∂θ∂(r1∂θ∂f)] −[∂r∂(r∂r∂f)+r1∂θ2∂2f]=0=0=0
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両辺を−∣J∣で割って整理すると,[(長さ)−2の次元]×f=0の形となるので,Δf=0と比較すると,ラプラシアンが求まる.
両辺を−∣J∣=−rで割って整理すると,
[r1∂r∂(r∂r∂)+r21∂θ2∂2]f=0
となるので,ラプラシアンは,
Δ=r1∂r∂(r∂r∂)+r21∂θ2∂2
を得る.
円筒座標
円筒座標(x,y,z)=(rcosθ,rsinθ,z)のラプラシアンを求める.
q1=r,q2=θ,q3=zである.
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f(r,θ,z)を用いて,ラグランジアンを次のように定義する.
ヤコビアンは,
J=∂r∂x∂r∂y∂r∂z∂θ∂x∂θ∂y∂θ∂z∂z∂x∂z∂y∂z∂z=cosθsinθ0−rsinθrcosθ0001=rcos2θ+rsin2θ=r
であるから,
L(f,∂r∂f,∂θ∂f,∂z∂f)=def==21{∇f(r,θ,z)⋅∇f(r,θ,z)}⋅r2r(∂r∂f,r1∂θ∂f,∂z∂f)⋅(∂r∂f,r1∂θ∂f,∂z∂f)2r(∂r∂f)2+2r1(∂θ∂f)2+2r(∂z∂f)2
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オイラー・ラグランジュ方程式を書き下す.
∂f∂L−∂r∂∂(∂r∂f)∂L+∂θ∂∂(∂θ∂f)∂L+∂z∂∂(∂z∂f)∂L0−[∂r∂(r∂r∂f)+∂θ∂(r1∂θ∂f)+∂z∂(r∂z∂f)] −[∂r∂(r∂r∂f)+r1∂θ2∂2f+r∂z2∂2f]=0=0=0
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両辺を−∣J∣=−rで割って整理すると,
[r1∂r∂(r∂r∂)+r21∂θ2∂2+∂z2∂2]f=0
となるので,ラプラシアンは,
Δ=r1∂r∂(r∂r∂)+r21∂θ2∂2+∂z2∂2
を得る.
球座標(3次元)
3次元球座標(x,y,z)=(rsinθcosϕ,rsinθsinϕ,rcosθ)のラプラシアンを求める.
q1=r,q2=θ,q3=ϕとなる.
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f(r,θ,ϕ)を用いて,ラグランジアンを次のように定義する.
ヤコビアンは,
J=∂r∂x∂r∂y∂r∂z∂θ∂x∂θ∂y∂θ∂z∂ϕ∂x∂ϕ∂y∂ϕ∂z=sinθcosϕsinθsinϕcosθrcosθcosϕrcosθsinϕ−rsinθ−rsinθsinϕrsinθcosϕ0=r2sinθ
であるから,
L(f,∂r∂f,∂θ∂f,∂ϕ∂f)=def==21{∇f(r,θ,ϕ)⋅∇f(r,θ,ϕ)}⋅r2sinθ2r2sinθ(∂r∂f,r1∂θ∂f,rsinθ1∂ϕ∂f)⋅(∂r∂f,r1∂θ∂f,rsinθ1∂ϕ∂f)2r2sinθ(∂r∂f)2+2sinθ(∂θ∂f)2+2sinθ1(∂ϕ∂f)2
となる.
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オイラー・ラグランジュ方程式を書き下す.
∂f∂L−∂r∂∂(∂r∂f)∂L+∂θ∂∂(∂θ∂f)∂L+∂ϕ∂∂(∂ϕ∂f)∂L0−[∂r∂(r2sinθ∂r∂f)+∂θ∂(sinθ∂θ∂f)+∂ϕ∂(sinθ1∂ϕ∂f)] −[sinθ∂r∂(r2∂r∂f)+∂θ∂(sinθ∂θ∂f)+sinθ1∂ϕ2∂2f]=0=0=0
-
両辺を−∣J∣=−r2sinθで割って整理すると,
[r21∂r∂(r2∂r∂)+r2sinθ1∂θ∂(sinθ∂θ∂)+r2sin2θ1∂ϕ2∂2]f=0
となるので,ラプラシアンは,
Δ=r21∂r∂(r2∂r∂)+r2sinθ1∂θ∂(sinθ∂θ∂)+r2sin2θ1∂ϕ2∂2
を得る.
理論的背景
オイラー・ラグランジュ方程式の復習
よくみるラグランジアンは,時間t,時間に依存する座標{qi(t)},およびその時間微分{dtdqi}を独立な入力とする関数として,
L({qi(t)},{dtdqi},t)
のように定義される.
混乱を生みそうであるが,今回のラグランジアンはより一般に,変数{xi},それらに依存する関数{fi},およびその偏微分{∂xi∂fj}を独立な入力とする関数,
L({fi},{∂xi∂fj},{xi})
の特別な場合,すなわち,変数{xi}が座標{qi}にあたり,関数{fi}がfの1つだけで,またラグランジアンが変数に陽に依存しない場合として,
L(f,{∂qi∂f})
と定義されている.
よく見るラグランジアンと比べると,
(t,{qi},{dtdqi})→({qi},f,{∂qi∂f})
のように対応していることに注意してほしい.
このラグランジアンの積分として定義された作用積分I
I(f({qi}))=∫{qi}L(f,{∂qi∂f}){dqi}
がfについて停留値をとるためのfの条件が,オイラー・ラグランジュ方程式であった.
すなわち,Iのfについての変分δIを計算し,
δI=∫{qi}∂f∂L−i∑∂qi∂∂(∂qi∂f)∂Lδf{dqi}
の形から,任意のδfについてδI=0となる条件として得られるのが,オイラー・ラグランジュ方程式
∂f∂L−i∑∂qi∂∂(∂qi∂f)∂L=0
であった.
変分原理とポアソン方程式
作用積分を具体的にI(f({qi}))=∫V21∇f({qi})⋅∇f({qi})dvとしたとき,δfについて停留値をとる条件が,ポアソン方程式Δf=0であることを示す.
I(f({qi}))のδfについての変分δIが0となるようなfの条件を考える.
δI=∫V21∇(f+δf)⋅∇(f+δf)dv−∫V∇f⋅∇fdv=∫V21(∇f+∇δf)⋅(∇f+∇δf)dv−∫V∇f⋅∇fdv=∫V21(∇f⋅∇f+2∇δf⋅∇f+∇δf⋅∇δf)dv−∫V∇f⋅∇fdv=∫V21(2∇δf⋅∇f+∇δf⋅∇δf)dv≃∫V∇δf⋅∇fdv
ここで,最終行は,∇δf⋅∇δf=∣∇δf∣2 を微小量の 2 次の項として無視した.
さらに,ベクトル解析の公式 ∇φ⋅∇ψ=∇⋅(φ∇ψ)−φ∇2ψ と,ガウスの定理 ∫V∇⋅Adv=∫SA⋅ndS を用いると,
δI=∫V{∇⋅(δf∇f)−δfΔf}dv=∫S(δf∇f)⋅ndS+∫V(−Δf)δfdv=∫V(−Δf)δfdv
とできる.
よって,任意のδfについてδI=0となる条件は,−Δf=0すなわちポアソン方程式とわかる.
オイラー・ラグランジュ方程式との関係
具体的に与えた作用積分の積分変数を{qi}に変えると,
I(f({qi}))=∫{qi}21∇f({qi})⋅∇f({qi})∣J∣{dqi}
すなわち,ラグランジアンを,
L(f,{∂qi∂f})=21∇f({qi})⋅∇f({qi})∣J∣
とした作用積分といえる.
この作用積分に対する変分原理から得られるのがオイラー・ラグランジュ方程式であったことから,前項最終式のδIの積分変数を{qi}に変えることにより,
δI=∫{qi}(−Δf)δf∣J∣{dqi}=∫{qi}(−∣J∣Δf)δf{dqi}
ゆえ,
∂f∂L−i∑∂qi∂∂(∂qi∂f)∂L=−∣J∣Δf
であるとわかる.
したがって,オイラー・ラグランジュ方程式を書き下し,−∣J∣で割れば,ポアソン方程式が得られ,ラプラシアンの表式が得られるのだ.
まとめ
ナブラとヤコビアンを知っているか計算する必要はあるが,単位ベクトルの微分が出てこないぶん,いくらか楽な方法だろう.